傾斜地にある中古住宅のリノベーション事例
2021.11
目次
高台に建てられたスキップフロアの中古住宅
今回ご相談のお客さまは、高台の傾斜地を利用して建てられた住宅のリノベーションです。
「傾斜地」は建築士の頭を悩ます特殊な地形ですが、それと同時に平坦な地形では演出できないような魅力を発生させることもあり、腕を試される案件でもあります。
その住宅は「スキップフロア」と呼ばれる、左右の高さが違う構造で、全体的にはご家族(30代のご夫婦、低学年のお子さん2人)にも十分な広さですが、スキップフロアにより中央から分断された間取りのため「1つの階のフロアを広く使う」というのが難しい造りになっていました。
1階部分がキッチン・ダイニングで半分階段を上がると玄関・洋室・トイレ・お風呂。2階部分が和室で、さらに半分階段を上がると洋室という間取りです。
いざリノベーション! しかし…
お客さまは当初から「リノベーションして住む」ことを前提に、この中古住宅を購入していました。
物件を購入した不動産会社から紹介された建築業者に、リノベーションの提案を依頼したのですが、提案された間取りがスッキリしないため「なかなか決め手が無くて計画が進まない」という状況が続いていました。
その建設業者がいうには、もともと傾斜のある地形に合わせたスキップフロアで建てられた家であるため、間取りの変更が難しく「現状の間取りが一番適している」という回答だったそうです。
一時はリノベーションを諦めて、そのまま住もうと思い引っ越しましたが、やはり使いづらい間取りなので、今度はリノベーション会社を自分達で探して相談にきたとのことでした。
マストな要望として
- ① キッチンとリビングを一体型で使用したい。
- ② 自宅が仕事場でもあるので、仕事部屋から子供たちの様子が見える間取りにしたい。
ということだったので、さっそく調査を進め設計に取り掛かっていきました。
前述のとおり、確かにリノベーションしづらい間取りではありましたが、こまごまと壁の構造まで調べ、建物の強度に影響しない壁なども調査した後に、その壁を撤去して要望に近づけた間取りを提案しました。
また、平面的な図面ではわかりづらいので、その間取りの内観パースを作成してイメージを伝えていきました。
まず囲まれた階段の壁を撤去して閉鎖感を無くしていきます。
そしてスキップフロアであった壁の一部を撤去し、全体が見渡せるような配置にしました。
スキップフロアの段差はあるのですが、この壁を壊すことにより全体的に広々と見通しの良い空間になっていきました。奥の仕事部屋からも、子供たちが家にいる様子が見渡せます。
今回は、平面図では想像しにくい立体的な間取りであったことから、内観パースを作成することで、お客さまのイメージを表現し我々の提案をより具体的に伝えることができました。
ここでもうひとつの壁。大幅な予算オーバー…
今回の計画は「壁を壊す」ことで、お客さまのイメージと近いリノベーションが可能になりました。しかし、工事費の方が大規模なものになってしまい、当初お客さまが予定していた予算の約1.5倍と、大幅に超えてしまいました。
この予算の件でもお客さまは頭を悩ませましたが、現状の家を家族が使いやすく、住みやすくなるなら、この提案されたリノベーションが良いとのことで、どうにか進めることになりました。
予算調整として、寝室や子供部屋などの個室はそのまま既存の状態で使用していくことや、天井をスケルトンのまま使用するなど、さまざまな減額で予算調整を行なっていき、ある程度満足できる予算に落ち着きました。
今回のように大規模な工事ではなく、できるだけ元の壁などを活かしたリノベーションであれば、考えていた予算内で落ち着いたかもしれません。
しかし使い勝手の事を考えると、予算だけを見ても決断がつかないもの。
お客さまにしても我々としても、なかなか選択が難しいところです。
リノベーションは家族の生活のためのもの。
今回は建物が特殊な形状であったため、色々と知恵を絞りリノベーションを行いました。
一度は「そのまま住む」という選択をしており、お客さまとしては何が一番の正解なのかと悩んでいた様子もわかりました。
決め手となったのは「自分も含め、家族の生活のため!」という考え方だったのだろうと思いました。
新しく綺麗にしたいという思いは、中古住宅を購入された全ての方に共通している概念だと思います。
リノベーションをするということがゴールではなく、「家族の生活のためにどうしたいか?」という部分が大事であり、その答えとしてリノベーションという選択があるということだと感じました。
「こんな暮らし方がしたい」、「自分たち家族に合った暮らし」というのが明確にすることができ、それを設計会社などとイメージを共有できれば、自ずと答えが出てくるだろうと思います。
イメージがすぐにはわかなくても家族と話し合い、インテリア雑誌などで情報を仕入れて、話が合う設計会社に相談できれば、より良い答えが見つかってくるのだろうと感じました。